
「奪われた集中力」ヨハン・ハリ著 福井昌子訳 作品社
本書は2022年に出版されたStolen Focusが2025年に和訳出版されたものである。
人々の集中力がなぜ減退したか、これほどまでに注意散漫なのはなぜなのか、どうして自分はスマホを見ることをやめられないのか?それはどうすればいい? が主な趣旨。
よくある自己啓発本とは違い、人々の体験をかき集め、こうすれば人生が良くなるよ、自分はそうだったよ、というものではなく、ジャーナリストの筆者が世界中に足を運び研究者や活動家専門家にインタビューをし、個人から社会全体に対する問題提起をするための本であり、専門的な内容をわかりやすく楽しくそれでも深刻に描いた作品だった。
著者は前作でインタビューの捏造を指摘され、それもあってか今作はインタビュー内容をwebサイトに音声データとして掲載している。本文中にも間違いは訂正し掲載するので連絡をくれとかいてあった。和訳版はそのサイトの訂正を踏まえたないようになっているとのこと。
まずこの本の面白かった点は大量の科学者研究者の生い立ちや研究の動機となった体験まで描いている点!とても個人的な内容から始まる研究との関連エピソードは小説を読んでいるように面白かった。単にこういう研究がありまして〜と紹介されるよりもずっと楽しく読めたし、研究者の人間らしさや葛藤などもあることがわかるのは本当に貴重で素晴らしいと思った。
(しかし前述の通り著者は内容を捏造…盛ったことがあり、このエピソードなんかは絶好の盛りどころだと思う。もしも事実と違ったとしても…面白かった)
内容も衝撃的だった。普段テクノロジージャンルや医療、教育ジャンルのアンテナが高い人は知ってることもあるのだろうけど、自分には初耳レベルの衝撃エピソード揃いだった。グーグルをやめた人のテクノロジー倫理に関する活動とか、「残酷な楽観主義者」に対する話題。(これは自分には耳の痛い話だった)ADHDがほぼ遺伝要素だと言われるに至った研究とか、まじか?そんなんで?とびっくりしちゃったよ。遺伝子検査が始まってだいぶ遺伝要素が下がったともあり、色々と目から鱗が出る内容だった。
我々個人の問題と見做しやすいが実は社会全体の問題で、そういったものに個人で向き合うのはなく社会を変える方に動くべきと言うのは全くもってその通り、だが日本に住み長期政権がいかに腐っている様を見せても変わらないところを見続けている自分には絶望的に感じる話でもあった。
できれば社会に変わってほしい。でも現状自分にできることをするしかない。
そしてこの本が出た2022年から、パンデミック収束後の今SNSの様相は大きくは変わっておらず、なんならこの本の理想とは真逆の方向に進みつつある2026年。今一度自分たちができることに立ち返らないといよいよまずい。
結論の章に著者が書いた内容はそのまま自分も参考にするし、少し世界の見え方が変わったことで、また自分の行動も変わっていくと思う。そしておそらくこの内容を知る人が増えるほどその社会は実現しやすくなるだろう。この本が面白かったよ、とブログを書くことで、私はこの社会が実現するかもしれない確率をほんの少しかもしれないが上げたいと思う。
349pの革命へのアプローチは少なくとも読んだ私の心を動かした。
とても面白い本だった!


